
飯川のかなはんに、のん気というか、ものに動じない「べやさ」がいた。
下男たちも、彼女には、まったく頭が上がらない。
そこで、下男たちは、一度、びっくりさせてやろうと、一計を案じた。
夏の昼下がり、「べやさ」が、うとうとしているのを、下男だちが、そっと、かつぎ上げ、飯川の大池の土手へ運び、寝かせた。 とっぷり、日が沈んだ頃、やっと、彼女は、大きなあくびをして、目を覚ました。
あたりを見渡し、あわてて、奉公先に帰るやいなや、下男たちを集めて、大声でいわく、「奉公先の、大事なべやさが、盗まれたのも、知らないでおるのか。」と…。