
その昔、國下、八田、千野の山際に、二人の兄弟がいました。弟は、たいへん兄思いでした。
しかし、兄は、たいそう疑い深い人でした。兄は体が弱く、いつも家に引きこもっていました。
兄は、山へ行った弟のことを、ふと考えました。
「今頃、弟は、山できっと、美味いものを食べているに違いない。」と、目を光らせ、ねたましく思っていました。
一方、弟は、そのころ、山で、カーンカーンと木を切っていました。
汗びっしょりになり、切り株に腰を下ろして、一服していました。
「一生懸命働いた後の、一服はいいものだ。今頃、兄さんは、家で一人寂しく帰りを待っているだろう」
「どれ、なにか、美味しいものでも持って行ってやろう。」と、弟は、大きな山芋を探して、兄への土産にしました。
しかし、兄は、弟の優しい気持ちなど少しも知りません。一人で、山芋を食べてしまうと考えました
「おれに、こんな美味しいものをくれるのだから、弟は、山で、もっと美味しいものを食べているに違いない。」 あるひ、とうとう、兄は、弟を殺してしまいました。
ところが、弟の腹の中は、粟やひえで、いっぱいでした。兄は、初めて、弟のやさしさを知りました。
そして、あまりの恐ろしさに、その場で『ホトトギス』になってしまいました。
それから、毎日、夕方には、「掘って、煮て、食わそう。」「掘って‥‥、煮て‥‥、食わそう‥‥」と泣き悲しんでおりますとな。