
多根の村は、山間地にあり、冬が早く、春が遅い。農産物は、里より、よほどできなかった。
いつの時代か、村には、たいへん、辛抱強い男がいた。
畑にまいた麦を、裸足で踏まえ、体温で発芽させていた。
そして、りつぱな麦を作り、良質の麦種を産出した。
以後、多根の村にも、りっぱ に、麦を作れるようになった。
また、この男は、たいへん、ものぐさでした。
足も洗わないで、田畑から家へ出入りをしていた。
いつしか、この男の足に、麦が生え、すくすく育ったという。以後、村のみんなは、この男のことを、「麦太郎さん、麦太郎さん」と、呼ぶようになった。
そして、村の子どもが、足を洗わないで、飛びまわっていると、その親たちは、「麦太郎さんのようになるぞ。」と戒めたという。