第十七話 孫太郎池

八田の山奧の「谷内(やち)」というところに直径が二間ほどの小さな池があります。

昔、この池のそばに、村の若者たちが集まって、話し合っていました。

「この池の中を通って、向こう岸まで渡られるだろうか。」「途中で、背がたたんほど、深いところがあって、 溺れてしまうかもしれんぞ。」若者たちの中で、実際に、この池に入った者はいませんでしだ。

それは、大人たちから、「この池は、入ったら、二度とあがることができない、底なし沼だから、ぜったいに近寄るな。」と注意されていたからです。

若者たちの中で、『孫太郎』という若者は、みんなの話を、じっと聞いていましたが、「おら、この池の中に入って、深さを調べるぞ。」と言うと、 みんなが止めるのも聞かず、どんどん、池の中へ入っていきました。

『孫太郎』は、すぐ、膝まで水につかり、まもなく、肩まで水につかってしまいました。

その時、『孫太郎』は、一度みんなの方を向いて、元気よく手を振りました。「向かいまで、渡るぞ。」と言うと、さらに池の中へ向かって進んでいきました。

やがて、『孫太郎』の頭だけが、やっと水の上に見えていましたが、 それも見えなくなりました。

高く挙げた二本の腕が見えていましたが、それも、すっかり、池の中に消えてしまいました。

それっきり、『孫太郎』は、二度と池の中がら、姿を現しませんでした。

岸で待っていた若者だちは、繰り返して孫太郎』の名前を呼んでいましたが、このことを、できるだけ早く、大人たちに知らせなくては…と、村に向かって駆け出しました。

若者たちの話を聞いた大人たちは、さっそく池へ駆けつけて、池の中を深してみましたが、『孫太郎』を見つけることはできませんでした。

それから後、「この池のそばを人が通ると、池の中から、『孫太郎』の悲鳴が聞こえ、池の真ん中から、手のひらが現れて、人を引き寄せる。」といわれ、この池のそばを通る人は、誰もいなくなりました。

そこで、村人たちは、相談をして池の前でお坊さんにお経をあげてもらい、『孫太郎』の霊を弔いました。

それからは『孫太郎』の悲鳴や手のひらが、池の中から出なくなりました。

それから、この池は『孫太郎池』と呼ばれました。

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