
話は、明治三十年頃のことです。その頃、「念仏川」に、カワウソがよくいたそうです。
若宮の宮司が、川田の秋祭りに行きました。 出祭りも無事にすんで、宮司は、当番宿で大へんごちそうになりました。その上、おざしなどのごちそうを、たくさん風呂敷に包んでもらいました。
一杯機嫌で、供の者と一緒に、夜十一時頃に宿を出ました。提灯に火をつけるのも忘れて、供の者と話しながら、二十九日(ひずめ)の部落を通り過ぎました。
そして、「念仏川」の橋の近<まで来ると、供の者が、「何やら、急に風呂敷包みか重とうなった。」と言いました。宮司は、「がきめ、でたな。」と思いました。
気が小さい、淋しがり屋の供の者に、何んにも言わず先に歩かせて、後ろからよく見ました。
やっばり、「カワウソ」が、風呂敷包みにぶら下がっていました。
そこで、下駄で思いっきり蹴放すと、「カワウソ」は、川へ飛び込んでいって、ドボン、ダバダバと大きな音がしました。
供の者が、「今の音は、何んやったんか」と聞きました。すかさず、宮司は、「けっつまずいた拍子に、石を蹴飛ばしたんだ。」と言って、「カワウソ」のことを、ひとことも言わずに、家へ帰ったということです。
なお、「念仏川」は、若林地域を流れていますが、その昔、若林に「金剛坊融福院」という、大へん栄えた寺がありました。
善男善女が、この川づたいに、念仏を唱えて、お詣りをしたそうです。それで、いつしか、この川を「念仏川」と呼ぶようになったということです。