
今から七十年ほど前のことです。飯川の村のどこかから、聞こえてくるのでした。
その昔は、外に仕事をしていても、聞こえる、道を歩いていても、聞こえる、家の中にいても、聞こえる、と言った具合で、なかなか大きな音でした。
太鼓の音を聞いた村人たちは、 確かめるために、その音のするほうに向かってやって来ました。
すると、それは、大欅の上から聞こえてくるのでした。
ところが、不思議なことに、村人たちが大欅に近づくとその音は、ずつと遠<から聞こえてくるように思われるのでした。
「大櫸には、昔から、天拘さまが住んでいるという、天狗さまの太鼓の音に違いない。」「天拘さまが、太鼓をたたくときは、何かよくないことがあるに違いない。」 と言って、村人たちは、たいへん気がかりでした。
その時、大櫸のまわりが、雑草や折れた木の枝で、ひどく汚れていることに村人たちが気づきました。
「これは、きっと、大櫸のまわりが汚れているので、天狗さまが、怒っておいでになるのだ。」という者もあって、村人たちは、みんなで、木のまわりをきれいに掃除しました。
その後、おはらいの式をおこないました。それ以降、太鼓の音は聞こえなかったといいます。