
千野に「妙剱」というところあり、 「妙剱」の前の道のそばに、三つの石が置いてあります。
この石には、不思議なお話があります。
ある夜、旅の坊さんが、「妙剱」の前の道を通った。火が燃えているので、近寄ってみると、鬼たちが、大きな釜を焚きながら、「まもなく、ここに若い娘が通る。その娘をつかまえて、この釜の中にいれてやろう。」と話し合っていました。
旅の坊さんは、そのまま「妙剱」を通り過ぎて、七尾の方へ向かって、しばらく歩いていきました。すると、向こうから、若い娘が、泣きながら歩いてきました。
旅の坊さんは、娘に「どこから、来たのか、どうして、泣いているのか。」と尋ねました。
娘は、「わたしは、 七尾の山岸の娘です。この道をまっすぐ歩いて行くように言われましたが、夜道がこわいので、泣いているのです。」と答えました。
旅の坊さんは、この先に、鬼たちが待っていることは知らせず、「これからは、横を向かないで、ただ念仏を唱えながら、まっすぐ歩きなさい。」といって、自分の輪袈裟(わげさ)を娘に掛けてやりました。
旅の坊さんは、若い娘と別れてから、七尾の町へやってくると、山岸の家の前に、人がたくさん集まっていました。
近寄ってみると、葬式がはじまっていました。
町の人たちは、「この家の娘さんが、急に亡くなったので、みんなで葬式をしているところです。」と教えてくれました。
旅の访さんは、 さっき千野の「妙剱」で会った娘のことを思い出し、家の人に「少し、気になることがあるので、お棺の中を見せて下さい。」といって、 お棺の蓋を開けてみました。
中に入っているのは、確かに、さっき道で会った娘で、 旅の坊さんが掛けてやった輪袈裟をそのままつけていました。
その夜、娘を待ち伏せしていた鬼たちは、娘の念仏の声を聞いて、心を改め、三体の仏様に成ったということです。
鬼たちがいた場所には、三つの石が置いてあり、その石は、みんな仏様て、「勢子菩薩、 阿弥陀菩薩、 観音菩薩」であるといわれています。