第六話 カワウソにだまされた話

私が、父の生存中に聞いた話です。ある時、 父は、干野の畑さんへ祭りの招待を受け、大へんごちそうになり、お酒もだいぶ入っていたようです。

泊まっていくようにすすめられたが、父は、 それを押し切って帰ることになったそうです。

その時、手みやげにごちそうをもらい、夜の十一時頃、畑さんのところを出て、国下を通り、小学校の方へ向かいました。

国下の堀さんのところの橋を渡ったか渡らない中に、なんだか変な気持ちになりました。「たぶんこの道を行くと、小学校の方へ行かれる」と思い、歩いたのだが、行けども行けども小学校の方に出られませんでた。

その当時、電気もない時で、東の方を見ても、西の方を見ても、火の明りが見えません。気がついてみると、ひざまで水につかって、濡れて冷たくなっていた。

どう考えても、先に来たところでした。「へんだなあ。」と思い、座り込んでしまったそうです。

一服しようと、タバコに火をつけるとまるで夢から覚めたような気がしたそうです。
そのうちに、 夜が、白々と明けてきたので、気をつけてみると、竹やぶの中に座っていたそうです。

「いったい、ここはどこだろう。」と考えましたが、覚えていません。畑さんからもらってきたごちそうを、いつ、どこで落としたかも覚えていなかったそうです。

「これは、こんなところにいても仕方がない。早く民家のあるところに出なくては‥.。」と思い、すたすたと歩いていると、八田の道に出たそうです。

「俺は、昨夜一晩中、どこを歩いていたのか、国下まで行ったことは覚えているが…。その後は、 全くわからない。」

早朝、家に帰ると、祖母が、「千野に泊まってきたのか。」と尋ねて来た。カワウソにだまされたとも言われず、返事に困って、草刈りかまを持って草刈りに出かけたそうです。

その後、父は、「お前たちが、もし山へ行って道に迷った時、まず腰をおろして、一服して、平静になってから、次の行動に移れ。」と教えてくれました。 

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