第一話 街道のかわそ

ふるさとの民話 第一話 『街道のかわそ』

『今では様変わりして、話にもならんが‥‥、七尾街道に「かわそ」が出たもんだ。』と、白馬のやすたろうじいさまの若い頃の話です。

七尾の町から荷車を引いて帰ってくると、白馬の在所の川どえあたりで、たいてい暗くなる。それを待ちかまえていたように、「かわそ」が出て悪さをするので困っていた。 

今日も、やすけじいさまは、いつもの通り荷車を引いて帰ってくると、荷車の後の方を押さえつけるもんがおった。 

やすたろうじいさまは、「また、でてきたな。」と思い、「今日こそこらしめてやろう。」と身構えた。そして、前の引き棒を「コ卜ーン」と下げてやった。

後ろにぶら下がっていた「かわそ」は、その反動で飛び上がって、道わきの小川へ「ドボン」とはまってしまった。

それから幾日かたったある日、やすけじいさまは、町からの帰り道、細□の霧谷(キリタン)の新酒を飲んで、川どえまでさしかかった。「今日は、酔うとるので、 荷馬車を道わきに置いて、近道して帰ろう。」と思った。

そして、川にかかる丸太の一本橋を渡ろうとしたが、ふと、「かわそ」のことを思いだした。「かわそ」にイド返しされると思いややすけじいさまは、用心してI本橋を四つ這いに渡りだした。

一本橋の中程まで来ると、やっばり後ろから川ん中へ「ボチヤーン」と突き落とされた。
やすけじいさまは、川からはい上がろうとして、土手に何んべん手をかけても落とされるので、しまいには大声で助けを求めた。

近くのげんさのじいさまが、寝ようとしていたが、川どえの方から「才ーイ、オーイ」と呼ぶ声がするので行ってみるとやすけじいさまが、川の中で「チヤブチヤブ」しておった。

げんさのじいさまが、「お前さまそんな所でなんしとるがや。」と言うと、やすけじいさまは、けろっとして、土手へと一んと飛び上がってきて、「ありがとう、お前さまが来てくれなんだら、死ぬとこやった。」と言うた。

げんさのじいさまは、「霧谷」の新酒は水の中でも踊れるほど 良い酒かなあ。」と思った。

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